冬鳥一番乗り

コガモ(小鴨)の換羽

 例えばカルガモのように年間を通して雌雄の外見上の差異がほとんど無い*1種類もいるが、多くのカモは冬季にオスのみが繁殖羽と呼ばれる艶やかな羽衣に身を包む。その最たる例がオシドリのド派手な繁殖羽だが、本種コガモもなかなかな変身を遂げる。

 そして春、求愛が成り伴侶を得て繁殖地に戻ったオスからは派手な羽が抜け落ちて飛行すら困難な状態*2となる。捕食者に襲われがちなこの期間は生存率を上げる為に一見するとメスのような目立たない羽衣を纏う。この地味化したオスの状態をエクリプス*3と言う。  南関東で最初に姿を現す冬鳥はコガモ。↑のメスは派手なオスと比べると地味ではあるけれど、なかなか可愛いと思ってしまうのはトリバカの贔屓目だろうか。  ↑は飛来直後のオス。さすがに渡りが可能なほどには飛べるので風切羽の抜けた完全なエクリプスではないけれど、9~10月初旬のオスはまだまだメスとの識別に戸惑う羽衣を纏っている。カモ類に疎いヒゲボウズはクチバシが無地黒ならオス、黄色の斑があればメスとクチバシを頼りに識別している。  繁殖羽への換羽が始まった状態。ここまで来れば雌雄判断に困ることはなくなる。  11月頃のオス。換羽が進むにつれて見窄らしさがいや増すが、ここまで来るとあと一息。なんだか痒そうに見えてしまうのはヒゲボウズだけだろうか。  そして真冬、繁殖羽は完成形となる。このまま春を迎えメスにアピールしカップリングが成れば繁殖地へと旅立つことになる。オスたちの派手な装いも、換羽中の飛べない無防備な期間を考えれば命懸けなお洒落とも言える。心して見るべし。

*1:厳密には羽色の僅かな濃淡などで識別可能ではあるが、それも雌雄が揃っていれば比較できるといった程度の差でしかない

*2:飛行に不可欠な風切も抜け換わる為

*3:エクリプスには日食や月食の意もあるが、本来は「光沢を失っている」といった意味であるようだ

夏の終わりの狂乱

ヤマガラ(山雀)

 9月、エゴノキが実を付けるとヤマガラの狂乱が始まる。警戒心をかなぐり捨てて夢中で貪る姿を見るにつけ、ネコとマタタビの関係を想起する。エゴノキ果皮や果実には有毒なエゴサポニン*1が含まれるそうだけど、それがヤマガラマタタビのような作用をもたらすのだろうかと。

  そのエゴサポニンは結実の時点では果皮にしか無いそうなので、まだ果実が無毒な内に脂肪豊富なを大慌てで貪っているのかも知れない。

  ともあれヤマガラの狂乱は夏の終わりを教えてくれる。そろそろ里山にも秋の気配。南下を急ぐ夏鳥が通過し、コガモなど気の早い冬鳥が姿を現す。

*1:胃や喉の粘膜に炎症を起こす。溶血作用もある。

古城再訪

今帰仁城(なきじんじょう)趾

 14世紀の琉球は北山・中山・南山の三大勢力が覇を争った三山鼎立(ていりつ)*1の時代。今帰仁城は北山王の拠点として成立し、中山によって滅ぼされた後も1609年の薩摩軍侵攻により炎上するまで監守の居城だったとあります。

 今回は2005年以来の再訪。前回夕暮れ迫る曇天下で訪れた城趾はまさに「荒城」の風情だったと記憶。が、今回は圧倒的な快晴。この十数年で進んだ環境整備も相まって城趾の美しさが際立ちます。世界遺産、そして日本100名城に名を連ねるのもなるほどと納得。

 まずは外郭から見た内郭の城壁。曲線を織りなす石垣の連なりこそが今帰仁城の魅力でしょう。

  広々とした外郭から平郎門をくぐり抜け内郭へ。この辺はカンヒザクラが植えられているので、1~2月の開花時季はかなりの人出だそうな。

  城壁越しに望む海は東シナ海。手前の谷に目をやれば素人目にも難攻だったろうことは容易に想像できるし、山城としての機能のみならず大陸との交易船など水運を見張る意味もあったのかも知れません。

  最奥の郭(志慶真門郭シゲマショウカク)は城主の近親や重臣の住まいがあったとか。杭が往事の屋敷跡を示しています。

  志慶真門に至る趣のある石組み。

  そして主郭(本丸)。今帰仁城の栄華と衰退の絶えず中心であった処。この火之神の祠がいつの時代のものかは寡聞にして知らないけれど、城の滅亡後も祈りの場であり続けてきたのでしょう。

  駆け足の城趾探訪。駐車場や資料館など環境整備も進み、世界遺産登録とは即ち地元のパッションでもあるのだと納得した次第。沖縄本島中南部の城群及び王朝関連施設*2や再建の始まった首里城*3等々、歴史は好きとしては琉球文化遺産を巡る旅も楽しかろうと思います。プライベートでの再訪を期すこととし、沖縄出張を終えました。

*1:資料で初めて知った言葉だけど、鼎(かなえ・てい)は古代中国の三本足の鍋型青銅器。鼎立はそれに由来し3つの勢力が並び立つ状態だそう

*2:世界遺産登録は首里城今帰仁城以外に座喜味城(ざきみじょう・勝連城(かつれんじょう)・中城城(なかぐすくじょう)・識名園(しきなえん)・斎場御嶽(せーふぁうたき)・玉陵(たまうどぅん)がある

*3:復元工事が始まっている首里城本殿は2026年秋に完成する予定

アゲハはアゲハを擬態する

シロオビアゲハ(白帯揚羽)

  奄美諸島以南の普通種だけど、ヒゲボウズは南関東の住人なのでついつい追いかけてしまいます。地元のスタッフから見ればスズメを珍しがるようなものなのでしょうか、なま温かい視線を頂戴しました。

 さて雌雄不明なれど典型的なシロオビアゲハ。基本的に黒地に白の2色です。

  そして興味深いのがメス。オス同様の白帯型のほかに紅紋型と呼ばれる赤色斑のある個体が存在しています。

  どうやら毒蝶であるベニモンアゲハに擬態しているそうですが、興味深いのは擬態しない白帯型のメスも少なからず発生すること。

そしてこちらが擬態の本家ベニモンアゲハ。2005年の撮影ですが、翅がボロボロなのは頑張って生きてきた証とご容赦ください。

 まぁ、たまたま撮れて、同定の参考にした資料で読んだに過ぎないけれど、生物学ってとんでもなく深い世界だと思い知りましたとも。

参考(琉球大学):https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/4810/

 

ボーイング787

 久しぶりの空の旅はボーイング787。2011年のローンチなので最新と言うには語弊があるけれど、ヒゲボウズは787初搭乗でした。

 いやはや知識としては抑えていたけれど、聞きしに勝る主翼の上反角。炭素繊維強化プラスチックなど、最新のマテリアルを駆使したしなやかさをまざまざと見せつけられました。

沖縄の最北

辺戸岬

 辺戸岬(へどみさき)は沖縄本島の最北端*1。肉眼では22km北の与論島(鹿児島県)がかすかに見えていたけれど、写真では判らないのが残念。

  岬周辺で縄張りを争っていたのはイソヒヨドリ。沖縄ではそこら中で見かける普通種ですが、最近は関東の内陸にも進出しつつあり、海から10数キロ離れた我が家付近でも見かけるようになりました。

 それにしても鳥撮り機材を持ち込めない出張の合間。フルサイズ一眼レフと70-300mmコンパクトズームでは鳥撮りには厳しすぎ。やはりプライベートで再訪せねば。

    最北とか最果てという言葉には不思議な響きがあります。
なにやら涼しげに思えてしまうのはその語感と風に晒された植生のもたらす荒涼感ゆえだろうけれど、9月上旬の沖縄は30℃超えの真夏日。そりゃもう汗汗汗ですわ。

  岬周辺は所々にサトウキビ畑があるものの荒れた原野の趣。

  道以外には人工構造物のない大地と海と空、こんな当たり前の組み合わせに感動を覚えるヒゲボウズ。はたして病んでいるのでしょうか。

ロードキル

 沖縄北部の3村にまたがるやんばる国立公園は2016年の制定。さらに2021年にユネスコ世界自然遺産としても登録されています。ヤンバルクイナなど固有種の宝庫であることも登録の理由ですが、その多くは絶滅に瀕しているのが実情。保護対策の一環にロードキル(交通事故により路上で野生生物が死亡すること)の防止があり、通行車両にスローダウンと飛び出しへの注意を喚起する目的で様々な標識が設置されています。

左上から ヤンバルクイナヤンバルクイナ親子・リュウキュウヤマガメ
左下から クロイワトカゲモドキ/オキナワイボイモリ・オキナワイシカワガエル・ケナガネズミ

ヤンバルクイナ以外はヒゲボウズの推測ですので間違っている場合があります)

 ここに掲載した標識以外にも見落としたり後続車の都合で撮影できなかったバリエーションもあったので、本気で集めたらもっと多いと思われます。やんばるではないけれど沖縄の幹線高速道路「沖縄道」の北部区間ではリュウキュウイノシシの標識があったし、たんに「カメ」や沿岸の道路では「カニ横断注意」といった文字のみの標識も幾つか見受けられました。

*1:沖縄県の最北端は伊平屋島の田名岬

沖縄へ

出張なのが泣けてくる

 8月上旬に南西諸島に居座り続け猛威を振るった台風6号*1の災害復旧に関わる仕事で2週間ほど沖縄北部に滞在していました。災害から3週ほど経過してからの訪島でしたが、別送した機材の到着が遅れるなど、インフラだけでなく物流への影響も続いている様子がうかがえました。

 言うまでもなく仕事としての沖縄出張。でもね、現場との往復路や僅かな余暇を見逃すほどヒゲボウズは出来た人間ではありませぬ。ましてや担当範囲が自然豊かな沖縄北部ヤンバル(山原)とあってはナニヲカイワンヤ。さすがに嵩張る鳥撮り機材を持ち込むほど厚顔ではないけれど、風景ぐらいは撮れるよう最小限のカメラレンズは持っていきましたとも。諸々片付けながら数回に分けて掲載出来ればと考えておりまする。

慶佐次(げさし)川のマングローブ

 やんばる(山原)と呼ばれる地域は本島最北の国頭村大宜味村、そして慶佐次川の流れる東村。沖縄本島には何カ所かのマングローブ群落があるが、最大規模のマングローブ林がここ東村ふれあいヒルギ公園。https://hirugipark.com/

hirugipark.com

 以前に訪れた先島諸島、特に西表島のそれとは比ぶべくも無いけれど、そこまで足を伸ばさずしても「なるほどこれがマングローブか」と実感するに十分な規模。カヤックを用いてのエコツーリングの拠点ともなっているけれど、仕事の復路とあっては遊歩道を駆け足で回るのが精一杯。

  今さらだけどマングローブとは河口汽水圏の植物群の総称であり、マングローブという樹木があるわけではない。慶佐次川ではヒルギ科のオヒルギ・メヒルギ・ヤエヤマヒルギの3種が見られるそうだが、駆け足通過故に細かな観察はおぼつかない。

  そんな程度の認識でもそれと判るのがオヒルギの花。ヒルギ科では唯一花が赤いそうで、アカバヒルギという別名もあるそうだ。

  沖縄では嫌と言うほど見かけるレンタカーナンバーも東村ではあまり目にしない。リゾート目的の観光メインルートからは外れているのだろう。

  とは言え名護市からは半日あれば往復してちょっとしたエコツアーにも参加できる圏内。遠く西表島まで行かずしてマングローブ林を実感できるのも一興ではないかと思うのでした。 

*1:令和5年台風第6号Khanun(カーヌン)

そして鹽竈神社

塩竈・塩釜・鹽竈・鹽竃・塩竃

 ザ観光地たる松島の宿は財布に優しくないので、少しだけ足を伸ばして塩竃で一泊。翌朝は家人の希望に添って鹽竈神社を散策。

同じ境内には志波彦神社もあり、風情のある散策を楽しめます。

巫女さんたちが境内を掃き清める姿をそこかしこで見かける。朝参りの恩恵か。

 霊感などとは無縁なヒゲボウズだけど、時が凝縮されたような威圧感ならわかりもします。

 暑い一日を予感させる空。いや朝というのに既に汗が噴き出していましたよ。霊感より冷感を欲する罰当たりには400kmのロングドライブが待っているのでした。


閑話休題

 僅かな滞在中、「しおがま」の漢字表記を五つほど目にすることに。まず市制上の正式な地名は塩竈市。そしてJRの駅名は塩釜。前述の神社は鹽竈神社。さらに町中ではの組み合わせによるバリエーションが。ここまで表記が多い地名も珍しいのではないかと思います。