海の挽歌(阿刀田高)

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星新一以来のショートショートファンとしては、ショートショートの名手である阿刀田高を読みあさったのは必然だったのかも。その著者が描く長編「海の挽歌」を手に取ったのは十年以上前のこと。昔の恋人と再会し、2200年前に滅びたカルタゴと、その末期に燦然と輝いた英雄ハンニバルをしのぶ旅をともにする。作者の得意とする古代地中海世界に題材を求めたロマンティックな作品で、当時は如何にもインテリな女性が好みそうな作風だなぁと思った程度でした。
改めて読み返してみると、なんとも不思議な魅力が漂う作品です。以前はさして気に留めなかったヒロインに惹かれるのは読み手の自分が重ねた年齢故なのかもしれません。どうやら本作に限らずこの作者が描くヒロインは枯れいく男の「ツボ」を刺激するサムシングがあるようです。それ以上に古代地中海世界の織りなすスペクタクルに惹かれてしまうのですが、これは後年塩野七生の「ローマ人の物語」を貪り読んだことに起因するのかもしれません。
ひょっとすると絶版かもしれない本作品ですが、なかなか清涼な読後感。お薦めです。