砂漠の謎 マリア・ライヒェのこと

 NHK世界遺産を特集した番組を見ていたら、ナスカの地上絵とその研究者故マリア・ライヒェ(Maria Reiche)が紹介されていた。1998年に病没した彼女は、故国ドイツを捨てその生涯を地上絵の研究と保護に尽力した人物。その著書The Mystery of the Desert(砂漠の謎)も番組の中で紹介されていたけど、彼女は本書で地上絵の目的を太陽の暦でありかつ天体観測台だったとし、古代ナスカ人が宙天に見いだした星座をかたどったものだとする説を世に問うた。独・英・西の3カ国語で記された厚みが1センチにも満たない薄い本で、ナスカ地上絵群の紹介小冊子といった体裁だけど、その売り上げが彼女の活動を支えていたそうだ。


 さて、1982年のある日、ナスカにマリア・ライヒェを訪ねた際に直接手に入れたのが写真の古ぼけた本書。何度も目を通すうちにボロボロになってしまったけど、文庫と新書が大半の我が蔵書にあって唯一家宝といえそうな本。なにしろ彼女のサイン入りなのだし。


 晩年の80歳近い彼女は足下もおぼつかない様子でサインするのも辛そうだったけど、眼鏡レンズ越しの目はピュアな光を宿していた。(驚くことに彼女はその後さらなる十数年をナスカ研究に捧げたそうだ)本書を手に入れたことよりも、生前のマリアと出逢えた記憶こそが宝物なのかもしれない。