ディープだなぁ

クジラを捕って、考えた (徳間文庫)

クジラを捕って、考えた (徳間文庫)

最近ちょっと残念な思いをしたことからにわかにクジラへの興味が募り、書店で目に留めた時にはレジに向かっていました。
この著者の作品は「夏のロケット」と「リスクテイカー」を読んだことがあり、いずれも期待を裏切らぬ小説でした。一方この作品は1992年の調査捕鯨に同乗取材した経験に基づいて1995年に出版されたルポルタージュ。しかも「夏のロケット」で小説家として認知されるよりも前に書かれたとあっては、読み手としてはお手並み拝見という意識もなきにしもあらず。


読んでみました。いやー、参った、参りましたよ。
捕鯨母船やキャッチャーボートに乗って南氷洋での半年間。やはり実際の現場で臭いを嗅いで来るというのは伊達じゃないんですね。作者及び捕鯨関係者や調査に携わる研究者達の喜びや苦悩が手に取るように伝わってきました。
作者は捕鯨という行為に対して是とも非とも主張しません。現場での見聞を軸に、商業捕鯨肯定の捕鯨従事者達と否定する環境保護派の主張や背景、まさに両者の板挟みのような立場にある研究者達の立場を客観的に紹介しています。そして南氷洋の現状も。そこから先をどう考えるかは読者に委ねられるわけです。


作者も文庫版のあとがきで触れていますが、捕鯨もしくは南氷洋でのクジラの生息現況はこの十年さして変化していないようです。ならばこそこの本も未だ「旬」なんでしょうね。お薦めです。