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 東北の惨状に目や耳が鈍化してしまいそうな日々。そんな中、九州に住まう従兄弟の訃報が飛び込んできた。


 最後にあったのはお互い二十歳代だった数十年前。記憶が風化するには十分すぎる年月。今の彼を偲ぼうにも、歳を重ねたその姿は想像すらできない。が、麻痺した心が溶けだしたのか少しずつ、だけど奇妙なほど鮮明な少年が思い出されてきた。瀬戸内の島で生まれ育った男の子は海と太陽の申し子。日に焼け引き締まった彼は釣りの天才にして素潜りの達人。街から帰省した従兄弟にはその野生が眩しかったっけ。


 つまるところ、私は彼の人生を知らない。急性骨髄性白血病という死に至らしめた病の名を知るのみだ。万を超える人が唐突に人生を失ったのとほぼ同時期に、病床で逝ってしまったことさら珍しくはない死。だけど思うのだ。せめて今夜は一つ年下の従兄弟が知る少年の姿をした彼を偲ぼうと。


 誠さん、あなたには敵わないままだったよ。